淋菌感染症(淋病)

淋菌感染症(淋病)

淋菌感染症(淋病)とは性行為によって感染する性感染症の一つです。

淋菌感染症はナイセリア属に属するグラム陰性双球菌である淋菌によって感染します。

淋菌は女性の子宮頸部、子宮、卵管等の生殖器や、男女の尿道など温かく湿った場所を好み増殖します。

また口、咽、目、直腸などでも増殖することが知られています。

淋菌はペプチドグリカン層が薄く、脂質が多い細胞壁を持つグラム陰性細菌です。

淋菌の細胞壁を覆っている外膜はたんぱく質、リン脂質、リポ多糖類から成っていますが、そのうちのりポ多糖類は腸内細菌のものと明らかに異なっているため、リポオリゴ糖と呼ばれており、病原性となる内毒素を含んでいます。

淋菌は尿道、子宮頸部、直腸、咽頭、結膜などの円柱上皮細胞の粘膜微絨毛に付着すると細胞膜を通り抜けて細胞膜下に到達し、増殖します。

淋菌は好中球に自分を攻撃させて破壊させようとしますが、このことによって感染部にひどい炎症が引き起こされ、炎症によって生じた膿が尿道からの分泌物やおりものとなって排出されます。

淋菌性感染症は、尿道炎、子宮頸管炎、卵管炎、直腸炎と進行し、ひどいものになると精巣上体炎や骨盤炎を発症させます。

 

◆感染状況◆

淋菌感染症は日本では性器クラミジアに引き続き、2番目に多い性感染症と言われています。

感染者数は1984年から減少傾向にありましたが、1990年半ばから逆転し、再び増加傾向にあります。

1回の性行為で感染する割合は少なくとも30%と言われ、感染者の20~30%が性器クラミジアにも感染していると言われています。

男女間で比較すると男性の感染者数が圧倒的に多いのが特徴となっていますが、これは男性には明らかな症状が現れるのに対して、女性は無症候である場合が多いためであると考えられています。

淋菌は人の粘膜から離れて長時間生存することができません。

また、日光、温度変化、消毒剤で簡単に死滅してしまう非常に弱い菌です。

このようなことから性行為以外で感染することはまずないと考えられています。

 

◆女性における感染の進行◆

淋菌はまず子宮頸管に感染します。

初期症状として排尿時の痛みや、頻尿、黄色いおりものの増加、外陰部の赤みや腫れ、及び痒み等の症状が現れる場合もありますが、感染した女性の半数以上において無症候との報告もあります。

たとえ症状が現れても程度が軽いため膣炎や膀胱炎と勘違いされることも少なくありません。

感染が子宮頸管から子宮へと進行したあと、卵管や卵巣まで進むと、不妊症の原因となる卵管炎や卵巣炎を発症します。

さらに、子宮頸管への感染時点で無症候だった感染者の約15~20%において微熱、腹痛、不正出血などを伴う骨盤内炎症性疾患が引き起こされるともいわれています。

稀に淋病性皮膚炎や淋病性関節炎、心内膜炎、髄膜炎など散在性の症状がみられることもあります。

また妊婦が淋菌感染症に感染していると分娩時に産道感染し、新生児が淋菌性結膜炎に感染し、失明する危険性もあります。

 

◆男性における感染の進行◆

まず尿道の粘膜に化膿性の炎症が起こります。

炎症が起こると尿道から分泌物を排出しますが、この分泌物の量や色は少量で透明、或いは濁ったものが少量であったり、膿が大量に出たりと感染者によって様々です。

また排尿難を伴う場合もあります。尿道部の細胞が炎症することによって感染部位の赤みや腫れ、熱、痛みなどを経験することもあり、排尿時に焼けるような強い痛みを感じます。

感染はさらに進行し、前立腺まで進むと前立腺炎が、精巣まで進むと精巣上体炎、及び睾丸炎が引き起こされます。

 

◆潜伏期間◆

約2~7日と言われています。

 

◆淋菌感染症の症状◆

女性

男性

頻尿、排尿時の痛み

子宮頸管炎

排尿痛、排尿難

尿道炎
前立腺炎

黄色いおりもの

尿道からの分泌物

外陰部の赤み、
痒み、腫れ

尿道の赤み、腫れ、熱、痛み

不正性器出血

骨盤内炎症性疾患

陰嚢の腫れ、痛み、
発熱

精巣上体炎

下腹部の痛み、発熱

卵管炎、卵巣炎

 

 

発熱、不正性器出血、悪臭のするおりもの

骨盤内炎症性疾患

 

 

 

◆淋菌感染症(淋病)の治療法◆

細菌の細胞壁合成を阻害して細菌を死滅させるセフェム系などのβラクタム系抗生物質の投与が有効です。

細菌の細胞壁は細菌の形を一定に保つ他、外からの圧力に抵抗して細胞内部の組織を保護する役割を果たしています。

淋菌の細胞壁を構成しているペプチドグリカンは横方向の糖鎖と縦方向のペプチド鎖が網目状に交差する構造になっています。

セフェム系抗生物質は、縦横の鎖の結合を触媒するトランスペプチターゼ酵素を阻害することによって淋菌の細胞壁合成を阻害します。

細胞壁が破損していると細胞外の水が細菌細胞内に侵入し、細菌は浸透圧によって溶菌してしまいます。

 

トヤマ堂で取り扱っている『シプラセフ注射液(セフトリアキソン)250mg』は第三世代セフェム系抗生物質であるセフトリアクソンを有効成分とする淋菌感染症治療薬です。

淋菌感染症の治療には血液の中に含まれている抗生物質の濃度が高いほど効果があります。

経口投与剤では薬の血中濃度を上げるためには多量の服用が必要となる上、腸管などでの吸収に時間がかかります。

そのため経口投与剤よりも注射薬のほうがより早くて確実な治療となります。

 

以前は同じβラクタム系抗生物質のペニシリンが淋病に有効であるとされていましたが、現在ではペニシリンに耐性を持つ淋菌が出現しているために最近ではあまり使用されていません。

完治には2週間程かかるといわれています。

症状は数日でなくなることがほとんどですが、完治していないうちに治療を中断すると淋菌が薬に対する耐性をつけ、治療が難しくなる可能性もあるため医師の指示に従って治療を受けることが必要です。

また、淋菌感染症ははパートナー両者の治療を同時に行うことも必要です。

さらに淋菌感染症とクラミジアの両方に感染している場合もあるので、クラミジア感染が確認された場合にはクラミジアの治療も並行して行う必要があります。