フェマーラ2.5mgは閉経後のエストロゲン受容体陽性(または受容体不明)の早期乳がん手術後の術後治療に用いられている新世代アロマターゼ阻害薬です。
乳がんはいまや日本人女性のうち20人に1人はかかるといわれ、30-60代前半のがん死亡率のトップとなっています。乳がん患者のうち、このエストロゲン受容体陽性患者の占める割合は約6割であると言われています。
乳がんのタイプは大きく分けるとエストロゲン受容体陽性のものとエストロゲン受容体陰性のものに分かれます。エストロゲンとは卵胞ホルモン又は女性ホルモンと呼ばれる物質ですが、このエストロゲンが細胞内に存在するエストロゲン受容体に結合することによって引き起こされるのがエストロゲン受容体陽性乳がんとなります。
エストロゲンの分泌は閉経前と閉経後で大きく異なります。閉経前のエストロゲンは卵巣から分泌されますが、閉経後は副腎皮質から分泌されているアンドロゲン(男性ホルモン)がアロマターゼという酵素の働きによってエストロゲンに造り替えられるようになります。
乳がんで恐ろしいのは、たとえ手術でがんを取り除いたとしても画像検査で見つからない小さながんが全身のどこかへ移転しており、いずれ再発転移がんとして発見されることです。そのため再発を避けるためのアジュバンド療法と呼ばれる術後療法が必要となります。
これまで代表的であったアジュバンド療法は抗エストロゲン剤のタモキシフェン(商品名ではノルバデックスとして知られている)が用いられてきました。抗エストロゲン剤はエストロゲン受容体と直接結びつき、エストロゲンが受容体に結合することを防ぎます。その結果、エストロゲンを利用して分裂、増殖するがん細胞の活動が抑えられることになるのです。
しかしタモキシフェンは抗鬱剤の一種であるSSRI(選択的セロトニン取り込み阻害薬)との併用ができないこと、ごく低い頻度であるけれども子宮内膜への発がん性があることなどから、より安全なアジュバンド治療薬の開発が進められてきました。
フェマーラ2.5mgはトリアゾール化合物の一つであるレトロゾールを有効成分とする非ステロイド系アロマターゼ阻害薬です。レトロゾールはアロマターゼ酵素のサブユニットの一部であるヘム鉄にアンドロゲンと競合的に結合します。レトロゾールがヘム鉄に結合した場合、アンドロゲンのアロマターゼ酵素による環化反応が不可能となり、アンドロゲンがエストロゲンへ構造変化することができなくなります。その結果アンドロゲンから造り替えられるエストロゲンの量が減少させられるようになります。閉経後のエストロゲン量は閉経前と比べて10分の1-100分の1に減少するといわれていますが、フェマーラ2.5mgを用いることによってその量は抑制前の10分の1から20分の1にすることができると報告されています。
フェマーラ2.5mgの優位性はタモキシフェンとフェマーラ2.5mgを術後それぞれ5年間投与した臨床試験において確立されています。この試験はBIG 1-98と呼ばれ、世界27カ国、8,000人以上の患者を対象とし、観察期間は26ヶ月間でした。
2005年に発表された同試験の結果は以下のようになります。
・再発リスクが19%減少
・化学療法がすでに施行された患者における無病生存率が30%上昇
・リンパ節転移のある患者における再発リスクが29%減少
・がんの遠隔移転リスクが27%低下減少
また、術後治療としてタモキシフェンの5年間投与を終了後3ヶ月間転移、再発のみられない患者5,000人以上を対象にフェマーラ2.5mgと偽薬を投与するMA-17という臨床試験においてもフェマーラ2.5mgが術後乳がん患者の生存率改善に貢献することが明らかとなっています。この試験の観察期間は2.5年間で、結果は以下の様になりました。
・遠隔部位での再発率が42%減少
・リンパ節転移のある患者における死亡率が39%減少
・再発リスク、がんの遠隔移転リスクの減少
フェマーラ2.5mgは日本では2007年4月に承認されました。アロマターゼ阻害薬を使用したホルモン療法が有効である場合には、副作用の強い抗がん剤よりもアロマターゼ阻害薬による治療のほうが適切であるとの認識が一般的になり、多くの医療現場でアロマターゼ阻害薬の使用が推奨されています。