ヌートロピル800mgは記憶障害、めまい、注意力・集中力の低下、情緒不安定などを改善する薬で、脳の認識機能を向上させる「向知性薬」としても知られています。
ヌートロピル800mgの有効成分であるピラセタムは、1967年にベルギーで開発された環状γ-アミノ酪酸の誘導体で、本来は乗り物の酔い止めとして使用されていました。ところが長年の研究の結果、さまざまな効果があることがわかってきました。
例えば低用量のピラセタムは、酸素とグルコースの利用増加を導くことで認知向上をもたらし、また高用量では血小板の抗凝集や抗血栓作用を現わします。またアルツハイマー病や血管性痴呆を含む痴呆の症状にも有用であるとも言われています。
なぜピラセタムがこのような作用を示すのかは詳しくわかっていませんが、少なくともピラセタムは脳の一部において血流量と酸素消費を増やす働きをしていることが知られています。またピラセタムは、脳梁と呼ばれる左右の大脳半球をつなぐ繊維束に作用して、大脳の左右半球の情報移動を促進し、記憶の処理に関わっているムスカリ性アセチルコリン受容体において、神経伝達物質であるアセチルコリンの機能を向上させている可能性があるとも言われています。
アセチルコリンは、その放出が少なくなると脳の働きが鈍くなり、集中力が低下するなどの症状が出てきます。しかしアセチルコリンの放出が改善されて量が増えると、目や耳から入ってきた情報を脳が的確かつ効率的に処理できるようになり、結果として集中力が増してきます。
さらに記憶と学習に関係するNMDAグルタミン酸受容体に対しても効果を発揮すると考えられていることから、ピラセタムは脳機能を調整し、認識機能を向上させるとされています。
またピラセタムは、ドイツ、イギリス、ベルギーなどでは皮質性ミオクローヌス治療薬としても使用されています。ミオクローヌスは瞬間的にピクっと突然起こる顔、上腕、太ももなどの筋肉の不随意運動で、覚醒時によく起こります。そのうち皮質性ミオクローヌスは、大脳皮質の異常発火が原因で起こる症状で、てんかんと発生機序が似ていることから「意識障害や全身けいれんを起こさない、ごく狭い範囲の大脳に起きる異常発火が原因で発生する一部の筋肉の不随意な動き」と定義することができます。
ピラセタムは、大脳網様体などの皮質下の賦活系を抑制することで、この皮質性ミオクローヌスに対して効果をもたらしている可能性があると考えられています。
学習能力、知的能力、記憶力、集中力などを高める薬を別名「スマート・ドラッグ」と言いますが、その中でもピラセタムはスマート・ドラッグの元祖とも言われ、もっとも有名な薬のひとつです。