トラジェンタ5mgは、食事療法や運動療法のみでは充分な治療効果が現れない場合に使用する、II型糖尿病の治療薬です。肝臓や腎臓の機能が低下している人も含め、あらゆる人に対して良好な安全性および忍容性を示すのが特長です。
インスリンは、血液中にある血糖(ブドウ糖)を体の組織に送り込んで活動エネルギーに変え、また食後に血糖が上がらないように調節する作用を持つホルモンです。ところが、このインスリンが不足したり働きが弱くなることで、血液中の糖分が効率よくエネルギー源として利用できなくなり、筋肉や内臓にエネルギーが運ばれなくなるために全身のエネルギーが不足した状態が糖尿病です。
糖尿病には、インスリンを作るすい臓のβ(ベータ)細胞が破壊され、体内のインスリン量が絶対的に足りなくなって起こるI型糖尿病と、主に食べ過ぎ、運動不足、喫煙、飲酒などの生活習慣やストレス、加齢などの後天的な原因でインスリンの分泌量が減ったり、働きが悪くなることで起こるII型糖尿病に分けられます。
糖尿病は初期段階においては自覚症状がほとんどなく、血糖コントロールが次第に悪化する進行性の疾患であるため、糖尿病による慢性的な高血糖状態は、やがて心臓や腎臓の疾患、失明、血管や神経の障害などを引き起こすおそれがあります。従って、血糖、体重、血圧、脂質の状態を良好にコントロールし、合併症の発症や進行を抑えることが、糖尿病治療の目標となります。治療はまず食事療法と運動療法を中心に行ない、それでも目標の血糖コントロールを達成できない場合には、薬物療法を併用します。
糖尿病の薬物療法には、インスリン抵抗性を改善するビグアナイド薬やチアゾリジン薬、インスリンの分泌を促進するSU薬や速効型インスリン分泌促進薬、さらに食後高血糖を改善するα-グルコシダーゼ阻害薬などの薬を使用しますが、トラジェンタ5mgは、DPP-4阻害薬という新しいジャンルに属する薬です。
血糖コントロールには、食事の摂取などにより消化管から産生されるホルモンであるインクレチンが関与していることが近年の研究で明らかになっています。インクレチンは、血糖値が高い場合にはインスリン分泌を増強しますが、血糖値が正常あるいは低い場合にはインスリン作用を増強しないという特長のほか、グルカゴンの分泌を低下させ、肝臓における糖新生を抑制する作用があることも確認されています。インクレチンは、小腸粘膜に局在する細胞から、栄養素の刺激によって分泌され、その後DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)酵素によって速やかに不活化されてしまいます。このDPP-4の働きを選択的に阻害することで血糖降下作用を発揮するのがDPP-4阻害薬であり、トラジェンタ5mgの有効成分であるリナグリプチンです。
リナグリプチンは、主な排泄経路が腎臓でなく、胆汁を介して未変化体として糞便中に排泄される、世界初の胆汁排泄型選択的DPP-4阻害剤です。糖尿病の人においては、腎機能低下のリスクが高い、あるいは腎機能障害を合併しているケースが多く、また腎機能が低下している人は慢性腎不全への進行や、心血管病発症のリスクが高いため、その進行を止めることが重要となっています。さらに腎機能が低下しているII型糖尿病患者では、低血糖リスクが高まることが知られていることから、使用する人の腎機能の程度に関わらず、用量を調節する必要がないリナグリプチンは、画期的なII型糖尿病治療薬と言えます。
さらにリナグリプチンは、腎機能だけでなく肝機能の程度においても服用後の薬物血中濃度に与える影響がないため、従来のDPP-4阻害薬よりも使用しやすいという特長も持っています。