ゲンチシン点眼薬0.3%は、眼瞼炎、涙嚢炎、麦粒腫(ものもらい)、結膜炎、角膜炎など、主に細菌の感染による眼感染症の治療に使用する目薬です。
目の感染症の原因には、細菌以外にもウイルスや真菌(カビ)によるものがあり、例えば結膜に感染すると結膜炎、角膜に感染すると角膜炎となります。統計によると、目の感染症の中でいちばん多いのが結膜炎で、全体の約3分の2を占めていると言われ、麦粒腫、涙嚢炎、眼瞼炎、角膜炎と続きます。
コンタクトレンズ、汚れた手で目をこする、ゴミや異物が目に入る、などで感染することが多く、代表的な症状として目の赤み、かゆみ、痛み、はれなどが起こります。
細菌はありとあらゆる場所に存在している単細胞の微生物で、細胞分裂によって増殖します。土や水の中に棲むものもあれば、動物や人間の皮膚、消化管、生殖器、気道などに定着している細菌もあり、人間の口腔内だけでも約600種類もの細菌が存在していると言われています。しかし人間に害をおよぼす細菌は全体のわずか数パーセントで、それ以外は人間にとって有益、もしくはまったく影響をおよぼさない細菌です。
また細菌は、球菌、桿(かん)菌、らせん(スピロヘータ)など形態のほか、グラム染色という色素の染まり方や、酸素との関係性など、複数の基準によって何種類かに分類することができます。
グラム染色による分類では、青く染まる菌を陽性菌、ピンクの場合は陰性菌と呼びますが、このうちグラム陽性菌は、厚い層におおわれているため乾燥した場所や暑い・寒い場所などに生息することができ、人の体では皮膚に、また自然環境中においては土中などに多く存在しています。しかし化学的な作用における抗力が弱く、比較的抗生物質が効きやすい細菌です。
その一方で、グラム陰性菌はほとんどの細菌性感染症の原因となる細菌で、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、コレラ、淋菌などが含まれます。 物理的要因や温湿度要因に対してはあまり強くありませんが、化学物質から護る外膜を持っているために、抗生物質が効きにくいという特徴を持っています。
グラム陽性菌をはじめとして、グラム陰性菌が原因の眼感染症に対しても強い抗菌力を発揮するのがゲンチシン点眼薬0.3%です。有効成分のゲンタマイシンはアミノグリコシド系抗生物質で、細胞のたんぱく質合成を阻害することで細菌細胞の成長を抑えます。
たんぱく質は細菌が生存したり増殖する際に必要不可欠な物質で、細胞のDNAにある遺伝情報を元にリボゾームと呼ばれる細胞小器官でたんぱく質を合成し、新しい細胞をつくり出すため、たんぱく質の合成を抑えられた細菌は増殖ができなくなります。
一般に、たんぱく質合成阻害作用を持つ抗菌薬は静菌的なのもが多いですが、アミノグリコシド(アミノ配糖体)系抗菌薬は抗菌力が高く、殺菌的に作用するほか、抗菌スペクトルが広いのが特長です。また熱に安定な抗生物質のひとつであり、高温高圧滅菌後においても活性を持ちます。
・適応菌種
ゲンタマイシンに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、インフルエンザ菌、ヘモフィルス・エジプチウス(コッホ・ウイークス菌)、緑膿菌
・適応症
眼瞼炎、涙嚢炎、麦粒腫、結膜炎、角膜炎