クイニン300mgはキニーネを有効成分とし、主に抗マラリア薬としてのほかに、激しい運動の後や夜間に起こるこむら返りの予防にも使用されます。
マラリアは、ハマダラカという種類の蚊が媒介になってマラリア原虫が寄生し、数日から数週間の潜伏期間を経て増殖することで起こる病気です。マラリア原虫は爬虫類、鳥類、ほ乳類だけの細胞内に寄生し、魚類や両生類には寄生しないという特性を持つ単細胞生物で、人間に対しては熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵型マラリアの4種類の病態を引き起こします。
マラリアを発症すると主に40度近い高熱が発生し、異常な悪寒、頭痛、関節の痛み、吐き気などを伴います。一般にこの高熱は数時間で下がりますが、三日熱マラリアと卵型マラリアでは48時間ごと、四日熱マラリアでは72時間ごとに発熱が起こります。また別名・悪性マラリアとも呼ばれる熱帯熱マラリアは、感染した赤血球が細い血管の壁に付着して血管を詰まらせ、その結果、脳、肺、腎臓など多くの臓器が障害を受けるほか、急性で強い貧血を引き起こすのが特徴で、短期間のうちに意識混濁、発作、昏睡と症状が悪化し、最悪の場合は死に至ることもあります。いずれの病態も、例え症状が一時的に治まったとしても原虫は長期にわたって血液中にとどまるために重症化や慢性化することがあり、また三日熱および卵型マラリアでは再発することもあります。
一方の「こむら返り(こぶらがえり)」は下肢、特にふくらはぎに起こる一過性の筋けいれんのことで、一般的には「足が攣る(つる)」とも言われます。 激しい運動、水泳の後や睡眠中にあらわれることが多く、下肢の筋肉の一部に強い痛みを伴ったけいれんが数十秒から数分間続きます。ミネラル不足による筋肉の異常収縮や下腿静脈のうっ血、筋肉の激しい疲労、寒冷、過度の緊張などが原因で起こると考えられていますが、その仕組みはまだわかっていません。
これらの治療に使用される薬がクイニン300mgです。有効成分のキニーネは、中米コスタリカから南米ボリビアを原産地とするアカネ科の樹木であるキナの樹皮に含まれるアルカイド(窒素原子を含み、塩素性を示す天然由来の有機物)から開発され、解熱作用、抗マラリア作用、鎮痛作用、抗炎症作用などを持っています。
このキニーネはマラリアのDNAに結合し、生体の必須成分であるたんぱく質の生合成を阻害することで抗マラリア作用を発揮しますが、マラリアの胞子小体や赤血球への感染以前にはその効果が期待できないため、予防には適していません。
またこむら返りに対する作用は、筋肉の収縮/収縮情報伝達因子であるカルシウムの筋繊維内への分布を増強し、骨格筋の筋繊維に直接働きかけてその収縮情報の不応期を増長させる結果、筋強縮の刺激が軽減するためと考えられています。さらに運動神経終末から発せられたアセチルコリンからのシグナルを受ける運動終板という部位の興奮性を減少させることから、運動神経が受けた刺激による筋けいれんが減少すると考えられています。
なお抗マラリア薬としてのキニーネは、その強い副作用から使用が敬遠されるようになり、一時はクロロキンやメフロキンなどの合成薬が主流を占めるようになりました。しかし、これらの成分に対して耐性を持つマラリアが多くみられるようになったため、近年では再び治療に使われる機会が多くなってきています。